清濁の溶ける間の飴色の陽射しゆえ死をもたらすことの
古びれば不在を少しづつ載せて降ろさぬままに電車は発てり
その軋み、その掠れ、そのしづかなる息 宅録の宅を眼差す
世界とは人と人とが断罪をし合ふべきなり 飲み干すポカリ
そのビルは一面朝を滲ませて不在に古びゆく故郷を
この街の六月明日に亡ぶらむ窓に待ち人睡る六月
テーブルも椅子もフロアも所在する島も四角いカフェにくつろぐ
飛行機の飛べない空の下にゐるあなたは元気 此処は梅雨晴
ヘッドフォンに耳を塞げば嗅覚も絶ゆる心地が 暮れぬ夕方
夏至過ぎの雨は家屋を軋ませて達筆の父癖字の長子
躯とは土と同じと知り始め風がつめたき六月にゐる
シャツ二つ自づからその重さにて垂れをる夜を見上げつつ寝る
名を変へてみても死ねない 目覚めればわずかに腰の傷みは増して
多摩川に万物を押し流しゆく力あるなど知らず暮しつ
そのやうな振舞や慰みものを歌謡と呼びて恍惚の国
何もかも人に属してその捨てた牌の順序のメタメッセージ
豊島区に海のにほひのする朝を歩みつつ聴く tiny yawn
crisps が列なして次から次へ右耳へ入るみたいに鳴る guitars
医師看護師介護士たちに涙などないことにして盛夏のわれら
「牛の乳を自動で絞るロボット」といふナレーション聴こえねむたし
イントロと手拍子響く中に身を差し出す生もこの世にはあり
かき氷は blue hawaii を選ぶこときつと死ぬまで続けるだらう
死の床で口にする気があるゆゑのかき氷には blue hawaii を
マリンシティダイヤモンドパレスを見れば浅草氏ゐる世界をおもふ
Beetle の背丈年々低くなる世界よ肌を汚す夕日よ
きみどりの真四角の古電話機が不意に置かれてゐる花火の夜
コンテナを背負はず走る車体来て不安不穏を此処に置きたり
世界には黄色い乗り物があつて残れる日々をさう生きたしと
海鳥の飛ぶ遅さゆゑ港湾の真青を増せる嘴先の白
誰彼が引越すトラックの中のLEDのか細き光
あまりにもメロウに浮かれかなしきは平成初期の首都の音楽
刻一刻一日一日と壊死しゆく離れ得ぬ地を雨は掃射す
隣室より鳴るピアノまた眼前に成る句いづれも驟雨組曲
大雨の通過する休日 5字打てば立ち現るる A Perfect Sky
花火とは装置 それらの見えぬ地にそれらを見ざる意志もて生きる
熟すことなきまましほれはじめたる青みもうすき実としてあれば
わたくしはコーラの空きボトルに入れて飲み残されし麦茶のやうに
白胡椒振ればさざ波寄せるごと風下にゐるわれを取り巻く
ひととせのそのおほかたを渇きたる河のあふれしふるさとにゐる
ペイペイを鳴らしてしまふ 東京のイヤフォンにサブスクの笹久保伸
有機物燃やして作る灯がともす橋を歩けば風に川の香
地下鉄の出入口出て既に夜が明けてゐるゆゑ失はれし死
ある日新たに持つかなしみがある曲を繰り返し聴く体に変へる
ローソンにローソン色の看板があること 町が町であること
液体にしてその注がれる音のなきほどの重さをいま過ごしつつ
そのむかし馬にダイナといふ名前つけられし頃生まれし我は
そのむかし乗りしことあるスープラにスマホホルダー付き 死は近し
弁当を包むごとくに読みさしの二冊を布でくるみリュックへ
カヌレ噛むほの堅さほの柔らかさいづれも怖き仄暗き朝
ターボなら吸ふ掃除機の充電を何もできずに見つめてゐたり
中央で分けたる髪の染まらざる分け目辺りがさざなみに見ゆ
スウェットの上下で出掛け世界とは別レイヤーの無き物語
生きものや消ゑものといふそのときのものといふ語が描く永遠
なぜみんな脳で労働してゐるか 時間外には猫を観るのみ
煮た豆を水を飲みつつゆつくりと食ふことで得る視界もて生く
暗き部屋白き容器に白き液透明と見るわが眼の欺瞞
ものを食ふときに塩するその甘さゆゑ暴虐の獣たるヒト
この今日の空気の甘き匂ひゆゑ層成し見ゆる幼児期と死期
いつからか世界は jpeg にまみれ 本屋に自分だけといふ刑
唐突に人が死ぬ歌いくつかをつづけて読んでなぜ安らぐか
生きてゐる限り不正義たる日々をわづかに長くなりし夕暮
曇り空は重くはあらずただ残るかつてヴィーナスフォートたる壁
創英角ポップ体にてつくる世が資本主義ではなければいいね
立札に寄り添うごとく生えゐたるわれに名前の分からぬ草木
東京にじつはしばしば吐き切りし息のやうなる夜の満ちてをり
基礎のないやうに見えたる家ばかりある街を冬、彷徨う夜を
おのれにもある可食部と呼ばれ得る組織を今日の昼間に曝す
港湾に漫然とゆく港湾に詩を視ることを憤然と待つ
涸れてゆく躰をぬるく生きをれば身に付くきもい、とかあざす、とか
浮寝鳥あまたが波に散らされて日の出桟橋陰るばかりの
声だけが聞こえ去りたる人たちの溶け込みし夜の街に灯を消す
西口は母たる人とそのむかしはじめて会ひし崩れゆく街
けしかける言葉なき夜を古き粉をふるひて甘くなき菓子を焼く
冬晴の陰るを小さき窓に見て土日を休むものらの世界
ゆつくりとたんたんと火の通されて怨念のみでできたおうどん
内燃をせざる機関を持ち走るものに自分もなつて死にたし
ログインのための凝視の映るのを見ればその眼が宿す軽蔑
近隣に長く生きねば支へ得ず Fを点滅させる港湾
ひらがなにひらかれた漢字のイデア 墓地がバックの散歩の写真
マンションの一階古い小売店らくちんさうに死につつありぬ
帰路に就く人らを覆ふ作業着は忘れ去られし談話のごとし
入口を通ればいつもチッと鳴る いつか撃たれてもまあ、いいかな
終はることほぼ確実と思ひつつ全ての夜の飯に振る胡麻
固有の名 固有の数字 まだきらめいてゐる都市を撮る薄暮のヒトら
きれいだと思ふ心が擦り減りし朝眼前を叙事詩と思ふ
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