心母
その建物は
白い 軋みを脳に響かせて来る
巨大なその建物は
すれ違えないほど細く うねり 不規則な
申し訳程度の傾斜を持つ道を動線として
マッチ箱のようなという比喩がふさわしい
と 幼い日のわたしが内心評していた郵便局
をその足元に佇ませ
この町に暮らす人々の空中に
投影された心臓のように
存在していた
その中でわたしは世界に放たれ
今やすでに世界から放たれただろう人たちに
赤紫の肌を見せつつ
二度と帯びることのない体温を洗われ
まだ老いる前の町に 一つの
血球のように弾き出された
その後
その心臓をわたしは確かに 何度も
足を運ぶたび見ていた
その心臓が
そこに至るうねる細道が
マッチ箱が
そしてそれを眼にするわたしの
鼻に押し寄せる頭痛の気配が
日に日に像を薄れさせ――
今
真新しい空虚を目の前にして
わたしがこの
老いた町にいないことを知る
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