二万余日記 © kawase hisaki 2025 All rights reserved.
心母             その建物は 白い 軋みを脳に響かせて来る 巨大なその建物は すれ違えないほど細く うねり 不規則な 申し訳程度の傾斜を持つ道を動線として マッチ箱のようなという比喩がふさわしい と 幼い日のわたしが内心評していた郵便局 をその足元に佇ませ この町に暮らす人々の空中に 投影された心臓のように 存在していた その中でわたしは世界に放たれ 今やすでに世界から放たれただろう人たちに 赤紫の肌を見せつつ 二度と帯びることのない体温を洗われ まだ老いる前の町に 一つの 血球のように弾き出された  その後 その心臓をわたしは確かに 何度も 足を運ぶたび見ていた その心臓が そこに至るうねる細道が マッチ箱が そしてそれを眼にするわたしの 鼻に押し寄せる頭痛の気配が 日に日に像を薄れさせ―― 今  真新しい空虚を目の前にして わたしがこの 老いた町にいないことを知る top (contact : info アットマーク nimanyojitsuki.blue)