二万余日記 © kawase hisaki 2025 All rights reserved.
彷徨                       * 小学生として 自分が 教室で辞書をひき  聞いたことだけある 書くのがはじめての語 をノートに記すと そんな自分をどこか  夢のようだと少し離れて見つめながら 隣に 座る 遠く 生まれて間もない日々に交わっ た なじみある児の体温も 近く日々に覚え るまま 私はもうすぐ死ぬのだろうか と思 う          * あこがれの街の 古書とレコードを売る店が 地下にその十倍も広いダンスフロアを持ち そこでリアルタイム配信をしながら (それ で踊ることなどとても思いつけないような) 1930年代のアジテーションのサンプルのルー プを 仄かにラベルが日焼けしたカセットテ ープから流れる Man in the Mirror (0.7倍 速の)と重ね合わせて このフロアに響かせ  皆 わんわんと踊る          * 数十名の その街で暮らしているのか  (私が思い起こしている、親しかった亡霊 もまざっているのか?) 温かい息をした人たちが しなが残るままの 足取りと手の振りで 他愛ないことばを投げ かけ合いながら フロアを 裏口からにじり 出ていくと きわめて澄んだ  奇蹟のように広大な沼に出て 誰が先導するでもなく 日差しもなく ひたすら白く霧に覆われた どこまでも終わりなく 冬の海のように視界を満たす水に 皆でわらわらと浸かって 何処からともなく現れた 猫たちを ともに 濡れながら 愛撫していた top (contact : info アットマーク nimanyojitsuki.blue)