彷徨
*
小学生として 自分が 教室で辞書をひき
聞いたことだけある 書くのがはじめての語
をノートに記すと そんな自分をどこか
夢のようだと少し離れて見つめながら 隣に
座る 遠く 生まれて間もない日々に交わっ
た なじみある児の体温も 近く日々に覚え
るまま 私はもうすぐ死ぬのだろうか と思
う
*
あこがれの街の 古書とレコードを売る店が
地下にその十倍も広いダンスフロアを持ち
そこでリアルタイム配信をしながら (それ
で踊ることなどとても思いつけないような)
1930年代のアジテーションのサンプルのルー
プを 仄かにラベルが日焼けしたカセットテ
ープから流れる Man in the Mirror (0.7倍
速の)と重ね合わせて このフロアに響かせ
皆 わんわんと踊る
*
数十名の その街で暮らしているのか
(私が思い起こしている、親しかった亡霊
もまざっているのか?)
温かい息をした人たちが しなが残るままの
足取りと手の振りで 他愛ないことばを投げ
かけ合いながら フロアを 裏口からにじり
出ていくと
きわめて澄んだ
奇蹟のように広大な沼に出て
誰が先導するでもなく
日差しもなく
ひたすら白く霧に覆われた
どこまでも終わりなく
冬の海のように視界を満たす水に
皆でわらわらと浸かって
何処からともなく現れた
猫たちを
ともに
濡れながら
愛撫していた
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